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新しい上司

直属の上司、チーフフォトグラファー(カメラ部長)のビルが、解雇されてしまった。

リストラの嵐を乗り切れなかった、というのであれば仕方がない。しかし、彼の場合は、仕事上でのパフォーマンスが芳しくなくなかった、というのが「表向きの理由」だった。

確かにここ最近、ボーっとしていることが多く、意味不明の欠勤が目立っていた。普段から部下のおいらが懸案事項で掛け合う時も、なんとなくウワの空で話を聞いていたフシがあった。赴任してから、奥さんに逃げられてしまい、私生活で精神的に辛いことがあったのは知っていたけれど、こんな形で、いきなり姿を消してしまうとは、とても信じられなかった。

確か2週間ほど前だったか、ビルが不意に僕の背中をたたき、めずらしく「ちょっと一服するか?」と言いながら、自分を会社の裏庭に連れ出したことがあった。

開口一番、

ビル: 「俺ってさ、あんまりいい上司じゃないだろ?」

あまりにも直球の問いかけに、何と答えていいのか。

タカ:「え?そんなことないよ。なんていうか、あんまり“ボス”っぽいくないところが好きだしさ。それに、(ガイジンの)俺を(アメリカの)放送業界に入れてくれたものもビルのおかげじゃん!」

ビル:「ハハハ・・・何年かして、アイツのせいでこんな世界に足を踏み入れた、なんて言うなよな・・・」

タカ:「・・・」

その時のビルは、いつにも増して、悲しい目つきをしていた。そして僕がシカゴでの休暇を終えて戻ると、オフィスに彼の姿はもうなかった。

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かつて日本で日系企業のサラリーマンをしていた時、外国の企業は、従業員をすぐクビにすると思い込んでいたものだった。身の回りの備品を箱に詰めて、警備員に先導されながら、職場を去ってゆく・・・(多分、洋画の見過ぎだったのだろうか)、こんなことが日常茶飯事で起こるものだろうと、本気で信じていた。

今、こうしてアメリカにあるこじんまりとした会社に勤めていて感じるのだが、あの時分の認識は、半分本当で、半分ハズレでもある。

アメリカの企業で解雇される一番の理由として思いつくのは、リストラだ。リストラは、自分も含め、サラリーマンなら、誰にでも起こりうる。会社の業績が芳しくないという認識が内外に広まった時とか、会社が別の会社に買収されたりした時などは、人員整理が始まる前触れである。ただしその余波が降りかかったとしても、それは単に不運だったというだけのことで、当人の能力云々にはあまり関係なく、それが理由でその後の転職活動で不利になることはない。

次に考えられるのは、自身のミスだ。TV局の場合で言えば、何度も失敗を繰り返した上、向上の見込みがないと判断された場合や、局車で交通事故を起こしたとかが挙げられる。セクハラもしかり。

特に事故を起こしてしまったり、無断欠勤が続いた場合には、薬物に影響されていたか否かを証明するために、尿検査を受けなければならず、そこから大麻といったドラッグの吸飲歴が判明すると、Zero-Tolerance(ゼロ・タレランス-容赦ゼロ)でお払い箱にされてしまう。(ちなみに、この検査では過去遡って6ヶ月以内の吸飲歴がわかるという)

自分の周りに関して言えば、後者の理由で会社を去った人が圧倒的に多い。人間というのはいかに弱い動物なんだろう。今回のビルの場合も、「本当の理由」は、残念ながら、こちらの方だった。

はっきり言っておくが、薬物に手を染めるのは、クールなことでもなんでもない。ヒッピーが幅を利かせていた70年代、80年代なら、笑って済まされるが、このご時世、楽しいことなんか他にもっとあるじゃないか。第一、お金の無駄だよ。

でも、現実問題として、この国では、薬物を比較的容易に入手できてしまう。ストレス解消から、つい誘惑にかられてしまい、結果、キャリア上で失敗を経験する人が少なくないのも事実なのだ。ただ、再チャレンジが可能なのも、この国ならではだ。ビルもいち早く立ち直って、またいつかどこかで一緒に働くことができればいいと、心から願っている。

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ドタバタ劇の末、1週間後、報道部長から社員全員に1通のメールが届いた。新しい上司が決まったらしい。

「本日付で、ジムをチーフフォトグラファーに任命します」

ジム?

ジムって、俺のルームメートで、呑み仲間の、あいつのことかい?査定も、給料の交渉も、休暇の可否も、これからは奴次第なのかよ?酔った勢いで、お前によくやっていた、空手チョップ・・・もうやってはいけないのでしょうか。もしやったら、評価下がっちゃうの?

嗚呼、これからとてもやりにくくなりそうだな(泣)・・・。


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